このネットが発達し、すぐに欲しい情報が手に入る今。
安宿に必ずといっていいほどあったNotice Board、掲示板は残っているのだろうか。

張ってあるものといえば、宿へのお礼の手紙やいつのものか確かめようのない情報。
ここに来たのであろう旅人の自作の名刺や、宿で滞在中に撮られた写真など。

そして宿と提携しているのかしていないのか、よくわからないツアーの情報。

この宿にももちろん、レセプションという名の机の横に掲げられていた。
部屋を確認し、宿代の交渉もすることなくパスポートを出したところで目に入ってくる。


Bahariya Oasis 2day / 1night Tour
4 Pax : xx E£
5 Pax : xx E£
6 Pax : xx E£
7 Pax : xx E£

1泊2日の砂漠ツアー。
人数が多いほど安くなるようだった。


滞在日数を決めているわけではない。
そのうち誰かに声をかけて、集まればいいな。

そう思っていた。

入場料を払う際、「学生やんな?」と無理やり学生料金に。
ぼったくられた気がしたのだが、どう考えても主は得をしている…

突然の来客、忘れていた呼び名

「ケイさん、お久しぶりです!覚えてますか?」

ScuBarをオープンしたその年の夏、懐かしい顔が訪ねてきました。
2011年エジプトで出会い、皆から少し年が離れていたため息子と可愛いがられていた彼。

そんな彼も、今やもう30歳。
男性では珍しく、家庭科の教師をしているそうです。


そして、彼が呼んだ主の名前。


今でも忘れない17歳の夏。
ふとした会話の中から、母親より放たれた言葉。

「あんた、ハタチになったら改名せーへん?」
「あんたの名前、好きじゃないねん。」

それ、息子に言うか?って話なんですけどね。


主の名前、外国人には覚えにくい上、発音しにくいようなんです。
また母親も出産当時、シンプルな発音の名前を名付けたかったらしく。

まあ一歩間違えれば、某有名俳優と漢字違いの同姓同名だったのですが…


そういった経緯でこの当時、命名の候補の一つであった『ケイ』と名乗っておりました。


ScuBarをオープンするにあたり、ビジネスネームとして使おうかとも思っいましたが…
ややこしくなりそうでやめました。


なので、当時の友人は今でも主のことを『ケイ』と呼びます。

決して近隣国の人間が好んで使う、イングリッシュネームではないんです。


オーストラリア時代のシェアハウスの親父
『ケイ』は英語圏では女性の名前らしく、「男が来た…」と言われた



「もう一人探してるんですけど、行きたい人いませんかー?」


旅をしている人間は、捻くれたヤツも多い。
仲良くなろうと声をかけても、無愛想な返事が返ってくる。

もちろんそれは、警戒心からくるのだが。


しかしその彼は、某キャラクターの「野球しようぜ!」くらいのノリで話しかけてきた。


主のエジプト滞在の命運を決め、2020年の今にも繋がる一つの分岐点。


1泊2日を共にした、彼を含む6人。
この出会いからエジプトの旅が始まった。

どこに行くのかも、いつ着くのかも知らず揺られる

カイロのバスターミナルから出発し、数時間。
そして到着したところでランドクルーザーの後部、というか荷台に7人押し込まれた。


2020年現在、本当に便利になったものだ。
地図アプリで確認をすると、その場所は首都カイロから南西に370kmにある。


– Bahariya Oasis –
オーストラリアの砂漠地帯とは全く違う、ここは辺り一面砂の世界。

シャワーなどあるはずもない砂漠の真ん中。
皆が足だけつけてみる中、彼は喜んで飛び込んだ。



熱射の砂漠を彷徨っていたのならば、この湧き出る水は神の恵みに思えたに違いない。

だが実際は、元々鉄分が多いのか、配管が原因なのかはわからないが非常に鉄臭い。
そして太陽から届く熱により、生温い。


Crystal Mountain
その名の通り、クリスタルが取れる。



名のとおり、白砂が輝くWhite Desert。
反対に、黒石が広がるBlack Desert。

そしてその境にある、Crystal Mountain。


岩を砕くと、そのものがクリスタルであった。
プラスティック製のオモチャのような軽さ。

だがときに塊のまま、ときに砕き磨いて、古代より現代まで装飾品に使われている。


特別親切だとは思わなかったエジプシャンのガイド2人。
だが道中はもちろん夕食や寝床の設営など、手際よくもてなしてくれた。

砂漠のど真ん中で飲んだよくわからない酒。
決して悪いものではなかった。

各々が眺める、登ってゆく太陽。
あっという間だったが、素晴らしいツアーとなった。

彼が繋げた、8年後の出会い

昨年秋にも、その彼はScuBarに来店。
そしてあの時と同じように、また主を誘ってくれました。


「ケイさん、明日暇ですか?イベントあるんで、是非きてください!」

帰国後に彼がバイトをしていたレストラン。
料理の勉強のために世界を周ったという、そこのオーナーシェフだった方の主催でした。


翌日、数年振りに行く神戸・三宮でのイベント。
シェフと挨拶をさせていただいたのですが、主の顔をみるなり一言。


「エジプト人…じゃないですよね…?」



「エジプトでお世話になった人が来てくれることになりました!」とだけ伝えていた彼。

人間、何年経っても変わらないものですね。



そしてもう一人の変わらない人。

「今でも改名してほしいと思ってんのか?」という主の問いに対して、
「もちろん」と答えた18年後の母親。



エジプト編、まだ続きます。

次回は『恋する』ダハブ、そしてThistlegorm Wreck。
久々にダイビング話も出てくる予定です。


正直運転もしてみたかったが、そこは慣れない砂漠。
即スタック、横転したであろう。