旅の醍醐味の一つ。

『食べる』

本場の味を楽しむも良し、珍しいものを選ぶも良し。
ただ、その全てが口に合うという訳ではありません。

辛いものが苦手、香りが強いものが苦手。
日本食ではなかなか使われない食材のため、食べ慣れないものも。
好みはもちろんですが、冒険するには少し怖いものも多くあります。


主は『食事として食べるもの』であれば、焼いたレバーと煮込んだラム以外は何でもok。
お腹もありがたい事に、日常生活ですら困るほど頑丈、何でも美味しく食べていました。

そんな中で、『これは…』となってしまったものがいくつかあるのですが…


期待したものほど衝撃は大きく…

バックパッカーとして、旅中に一番気になることの一つに『値段』がある。
できるだけ出費を抑えて、少しでも余裕を持って旅を続けたい。


その中でも、毎日かかってしまう宿、そして食事。
安ければ安いほど良いのだが、もちろん何でも値段相応になってしまう。

主も、一日の予算内に抑えるため『こっちで贅沢をしたら、もう一方は我慢…』、『昨日出費が多かったから、今日は抑えて…』といったように旅を続けていた。


その点、タイやベトナム、インドネシアを始めとした東南アジアはありがたかった。

あれから10年以上経ち、倍以上に物価が上がった場所もある。
それでも、今でも一食200円ほどで食事ができる店も多い。
当時であれば100円あれば食べることができ、あまり値段を気にせずに注文できた。

そして何より、現地の人たちが行く店や屋台ですら、美味しい料理ばかりであった。

だからこそ現地の食堂でメシを食べることが、一つ楽しみになっていた。
それがそこの『美味いもの』だと思っていた。


のだが…


2011年8月 インド・ニューデリー

深夜に到着したホテルで一悶着あり、翌日の午前中に別の宿に移動した主。
その街、いや、その国での一食目、これがその旅の始まりだった。


東南アジアとはまた異なる南アジア。
場所が変われば全てが変わる。

コクがなく、ただ後味辛い

人がごった返しているニューデリー駅前。
食べもの屋が集まるエリアで昼食をとるため、値段と内容を吟味していた。

どの店も面白そうだったが、目についたのは寸胴でカレーらしき物を煮込んでいる店。

食べている人の様子を伺うと、プレートにスープが入った小さい器が2つ。
そして野菜を煮込んだものと、数枚のチャパティが乗っている。


聞くと40ルピー、当時で80円ほど。
おそらく観光客価格であったのだろう。

だが決して高いという値段ではないため、オーダーをして席についた。


写真を撮っていなかったため、画像が無いのが残念だが、見た目は決して悪くはない。
ターリーと呼ばれる料理の簡易版、といった印象だったのだが…


「あ、不味い…」


好き嫌いではない、不味かった。
たまたま出会い、一緒に食事をしていた日本人4人で思わず顔を見合わせた。


『出汁を取っていない味噌汁』と言えばイメージしやすいか。
ただただ辛いだけのスープ、深みやらコクが全くない。

安い店だからなのか、はたまた日本のインド料理屋が日本仕様に作っているだけなのか。
とにかく、色んな意味で衝撃であった。


この最初の食事がきっかけで、「インドの安飯屋は要注意」という記憶となった。

もちろん、その後に美味しいものが無かった訳では、決してない。
だがインドで食事の写真が無いのは、これが大きい理由である。


2019年タイ・タオ島にて。
決して綺麗なレストランではないが、何でも美味い。

真実は9年後、突然明らかに

実は、これが前々回の最後に書いた『最近解けた謎』の一つ。

この話を、なんとなく来店した世界を旅したシェフ(=旅シェフ)に話をしたところ、
「おそらく『サンバル』というものではないか?」と言われました。


このサンバル(sambhar)という料理、もちろん米や生地と一緒に食べるそうですが、どちらかというと『ドレッシング』に近いものであるそう。

なので薄味、少し付けて味わう程度のものだそうで。
食事が美味しくなかったのではなく、『そういうもの』のようです。


9年もの間、さんざん不味いメシネタで使い、インドの人には申し訳ない…


とはいえ、味の上書きをしていない現在、不味かった記憶に変わりはないのですがね。

満を持して食すも…

ニューデリーの衝撃から2ヶ月後。

場所は変わり、スペイン・バルセロナ。
2日後に、カンプノウでの一戦を控えたこの地での食事といえば。


街の小さなカフェ。
もちろん右の看板にしか目が行かなかった。



10ユーロ、当時で約1,250円。

1日30ユーロと決めていた中で安くはなかったのだが、レストランだともっと高い。
『ここは』と覚悟を決め、そして期待を多いに込めて入店した。


レジには少し年上であろう女性、そして後に外に出てくるシェフの男性。
夫婦で営んでいる様であった。

一番値段の安いパエリヤと、珍しくコーラをオーダー。
小さな店内にもいくつか席はあったが、せっかくならとサグラダファミリアを望む『テラス席』と呼ばる、ただ店の前の歩道にパラソルとテーブルを置いただけの席に着く。


喉が乾いていたのだが、少し調理に時間がかかるとのことで、ちびちびとコーラを啜っては、100年以上経っても未だ完成しない建造物を眺めていた。


そして約15分後。


何度見ても美味そうにしか見えない。
例えピントが合っていなくとも…



珍しくちゃんと写真が残っていた。
それだけ期待が大きかったのだと思う。

『好きなものは最後に』な性格の主は、もちろん米の部分をまず食べる。



「…えっ…?」



何かの間違いだと思い、コーラで口を流しもう一口。



「いやいやいや…不味い…ってか、塩っ辛すぎる…」

「それに米に芯が残ったまんまやし…」

「調理を間違えたのか…それとも考えたくはないが、差別的な何かなのか…」

「そんなことより、全部食べ切れる気がしない…飲み物が足りん…」


道徳的にも金銭的にも残す訳にもいかず、なんとか食べ切った主。
そして会計のために店内に入ると、パエリヤを作ったシェフが一言。


「俺のパエリヤ、美味かったやろ!」(主意訳)


心からの笑顔でそう言われた。
そしてその横で微笑む奥さんであろう女性。

どうやら嫌がらせでは無かったようだ。

そんな二人に不味いとは言えるはずなどない。
「めっちゃ美味かった!」と誤魔化し、支払いのためにレシートを確認したのだが…


『あれ…なんか高い…』


あまり値段を確認するのもやらしいので、支払いを済ませ早々に退店。
角を曲がったところでもう一度確認すると、こうあった。


Paella € 9.50
Coke € 4.00
——————–
Amount €13.50
——————–
Service charge 10%
Terrace Seat 25%
——————–
Total €18.56


「テラス席って別料金やん!…しかも25%って…その値段でビール買えたやん!」

なんとも言えない気持ちになったのは言うまでもない。

あと数年で完成すると言われているサグラダファミリア。
25%取られても、この景色なら文句は言えない…のか?

料金はともかく、味は現地の味だった…?

このパエリヤなんですが。
先述のインドの食事と同じく、『最近解けた謎』の二つ目なんです。


インドの話をしたついでに、パエリヤが塩辛かった事を『旅シェフ』に聞いてみました。

すると、「それはそういう味であった可能性が高い。元々スペインやポルトガルの料理は塩気がかなり強いことが多い」とのことでした。

更に、「向こうで修行した人間も、日本でその料理を提供するにあたり、かなり塩気を抑えなければと考えるとも聞く」ともおっしゃっていました。


そしてもう一点。

以前、今や料理長のあのお方にふと、「リゾットとかパエリヤ食べたとき、芯が残ってることよくあるんやけど、なんでなん?」と聞いたことがありました。

もちろん、バルセロナで食べたパエリヤの記憶もあって、その質問になったのですが…


回答は、「いや、そういうもんやねん」とのこと。
もちろん、ちゃんとした理由を説明はしてもらいましたが。

そもそも『食材としての米』の概念が違うみたいなんです。
主食として米を食べる日本人と、一つの食材として調理する欧州とでもいいますか…

このあたりは本職の方にまかせるとして、『パエリヤの米に芯が残っていた』のは、『残っているのが普通』というものらしいです。



その土地、習慣、文化によって、本当に色々と変わるものです。

自慢の料理だと言っても、「植物の根っこなんか食べさせられた!」と言われたり、
体にもいいからと言っても、「腐った豆を出された!」とか言われたり。

日本に訪れる外国人も似たような経験をしているのかな?と考えたら、ちゃんと伝えてあげなければとも思います。


ちゃんと勉強し、理解してから食べるべきなのか。
食べた後、何故こんな料理なのかと調べるべきなのか。
ただただ、知らないものを知った衝撃を楽しむべきなのか。


まあどれであっても、美味いよりも不味いのほうが断然ネタにしやすいんですがね。

コロナにカツ!